尻と便座の不幸な出会い
誰のどの本だったか忘れてしまった(おそらく沢木耕太郎さんの本だったと思う)けれど、こんなことが書かれていた。
インドを旅していて、トイレットペーパーを手放せたとき、また1つ自由になれた気がした、と。
インドでは尻を拭くときトイレットペーパーを使わない。水で洗い流す。便器のそばに必ず小さな蛇口が付いていて、その下に小さなバケツが置いてある。これに水を貯めて、尻の上からちょぼちょぼ流す。そのちょぼちょぼ水を待ちかまえて、左手で尻を拭く。尻に付いた水を拭き取る紙がないけれど、インドの気候ではすぐに乾いてしまうので問題ない。
インド人はご飯をつまむときもチャパティーをちぎるときも、必ず右手だけを使う。左手はテーブルの上に上げない。ヒンドゥー文化ではあらゆる場面で右手は浄、左手は不浄とされているからだ。だけど、そもそも左手は尻を拭くのに使うので、ご飯を食べるときにはあまり使いたくないのだ。
自分の手で尻を拭くのは、やはりはじめは抵抗がある。だからついついトイレットペーパーを持ち歩いてしまう。だけど一念発起してこの尻拭きができるようになると、水で洗い流す方が紙で拭くよりも清潔で気持ちがいいことに気がつく。そしてかさばるトイレットペーパーから解放されたとき、インドの習慣の中にまた少し入り込めたという実感がわく。