えんじゅ

ハンター・アンダー・グラウンド

チブウェさん

 もう二度と会うこともないだろうと思っていた。できれば会いたくないと思っていた。
 だけど僕とモグラの物語は、まだ終わっていなかったのだ。いや、この地に住んで生活をする限り、人と動物の物語に終わりなどないのかもしれない。

 このアフリカの地中に住む小動物は、本当はモグラではない。「齧歯目」のネズミなのだ(「トラベラー・アンダー・グラウンド」)。だけど地元の人もこの地中ネズミをモグラ(インフコ)と呼んでいるし、ややこしいのでモグラと呼ぶことにする。

 長かった乾季が終わろうとする10月末のある日のこと。村の友達が車椅子をキコキコいわせながら僕の家に遊びにきた。

 「今村でインフコ狩りをやっている人がいるんだけど、見に来ない?」

 と、彼は言った。
 その日は学校に提出しないといけない書類を書いていたのだけど、この友達はこういう忙しいときに限っておもしろそうな話を運んでくるのだ。

 「インフコ狩り!おもしろそうだなぁ。誰が狩りしてるの?」

 「フライデイのお兄さんだよ。あの人はインフコ狩りの名人なんだ」

 なるほど・・・。フライデイは教会のクワイヤメンバーの1人で、僕がひそかに村で一番のイケメンと思っている友達なのだ。そのお兄さんのチブウェさんは、村でも有名な狩りの名人だと聞いていた。だけどチブウェさんは流れ者らしく、村にいることは珍しい。僕はまだ会ったことがなかった。この「流しの狩人」に僕は一度はお目にかかってみたかった。
 というわけで、僕は書類を後回しにしていつものようにホイホイと付いていった。
 
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さんまの蒲焼き 3. 秋の悲嘆

さんまのか蒲焼きの食べ比べ

 ようやく封の開いた2種類の「さんまの蒲焼き」を盛りつける前に、言っておかないといけないことがある。
 それは、鷲野家ではさんまといえば塩焼きと100%決まっていた、ということだ。逆に蒲焼きといえばうなぎしか食べたことがない。だから僕の辞書の「おふくろの味」の項には、「さんまの蒲焼き」は記載されていない。記載されているのは、「うなぎの蒲焼き」、「さんまの塩焼き」、「さばの味噌煮」などだ。これは僕が缶詰を選ぶとき「さんまの蒲焼き」よりも「さばの味噌煮」を衝動的に手に取ってしまう要因でもあるのだろう。つまり、「さんまの蒲焼き」については僕はど素人なのだ。
 しかしながら今、2種類の「さんまの蒲焼き」を食べ比べてみるとき、そのことはむしろプラスに作用するかもしれない。つまり、「おふくろの味」バイアスを排したニュートラルな舌で公平な食べ比べができるのではないか。
 しかも、日本の味から離れてはや2年弱が経つ。今、海の魚に対する飢え、だから味覚の鋭さは、おそらく僕の人生を通じてピークを迎えているはずだ。そういう意味では、試食には絶好の舌のコンディションといえる。もしかするとそれこそが、このアフリカ大陸の、しかも海のない国ザンビアで、さんまの蒲焼きを食べ比べることの最大のメリットかもしれない。
 ましてや、380円の高級缶詰「原料にこだわった さんま蒲焼き」と、110円の庶民的缶詰「ちようしたのかばやき さんま」なのだ。この何もかも対照的な2種類の味の違いがわからなければ、日本人失格の烙印を押されても仕方がない。
 
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さんまの蒲焼き 2. 缶のミステリーを追う

缶詰の缶

 なかなか蓋が開かない「さんまの蒲焼き」だけど、2種類の缶詰の缶を見比べていて、思わず「へぇ」と唸ってしまった。
 驚くことに、缶詰の形を見ると両者とも全く同じなのだ。プリントの有無は違うものの、缶の大きさも、複雑な凹凸具合までもが全く同じだ。内容量もどちらも「固形量80g、内容総量100g」と統一されている。さんまの蒲焼きの缶詰の缶には統一規格があるのだろうか。それとも、両者とも缶は同じ缶製造会社に発注しているのだろうか。
 
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さんまの蒲焼き 1. 日本縦断と地域密着

さんまの蒲焼き

 ここに、2種類の「さんまの蒲焼き」の缶詰がある。それぞれ別々の会社によって製造されたものだ。同じ缶詰が2種類あると、同時に蓋を開けて味を比べてみたくなるのが人情というものだ。
 だけど食べ比べてみる前に、僕はこの2種類のさんまの蒲焼きの特徴について説明しながら、どうしてこれらの缶詰が僕の手元にあるのかを書いておきたいと思う。
 
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メイズの来た道

収穫したローカル・メイズ

 僕の畑のメイズ(トウモロコシ)が、今年も無事に収穫の時期を迎えた。
 僕は1年に2回、メイズの種を蒔いている。飼っている鶏の飼料にするメイズを、できるだけ1年を通して確保したいからだ。
 種は買ってくるのではなくて、毎回収穫時に種を乾燥させて保存しておいて、時期が来るとまた畑に蒔いている。種をとり続けることができるのは、品種改良されたF1種(一代雑種、一代限りしかうまく育たない品種)のホワイト・メイズではなくて、この地域に古くから伝わる在来種、ローカル・メイズだからだ。

 このローカル・メイズ、ちょっとおもしろい。一房一房、皮を剥がすまで実が何色なのかがわからないのだ。
 本来、メイズにはいろんな品種がある。ホワイト・メイズだけでなく、イエロー・メイズ、レッド・メイズ、パープル・メイズなど。まるでキャンディーみたいだ。それらが自然に交配して、1つの房に白、黄、赤、紫の実が入り交じることもある。これはスポット・メイズと呼ばれている。
 こんなふうに品種が多様なのが、ローカル・メイズの特徴だ。
 
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