ザンジバルに渡るためにフェリー乗り場に行くと、昼の便までにはまだだいぶ時間があった。近くにめぼしい場所はないかなと思って本屋で買った地図をひろげると、ザックを背負って歩いていける距離に魚市場を見つけた。さっそく覗きに行ってみることにした。
市場では競りが行われていて、すごい活気に満ちていた。
ダル・エス・サラームはタンザニア最大の都市だから、おそらくこの魚市場も最大級のものなのだろう。浜から水揚げされた魚が、次々と競り台に上がる。同じ種類の魚が何尾かまとめられて競りにかけられる。
僕も魚を目利きするぞという顔をして、競りの様子を見させてもらった。日本の競りと違うのは、一般の人でも競りに参加できることと、大型の魚が少ないということだ。日本の市場のように、外国から輸入された魚はなさそうだ。氷が詰められたトロ箱もない。
冷凍保存というシステムがないから、その日に揚がった魚は近いうちに食べられるのだろう。一般の人が直接買い付けるというのは、そういう理由なのかもしれない。
一本釣りで揚げられる魚は少なくて、ほとんどが近海で投網で捕った魚なのだろう。遠く沖に出られる大きな船が少ないということかもしれない。あるいは時間帯にもよるのかもしれないけれど。
ザンジバルに行ったら漁の様子も見てみたいな、と思った。
魚ばかり見ていると腹が減ってきた。そういう人のために、その場で食べられるものを売っている人もいた。
タコとイカを素揚げしたもの。1ピース200シリング(約12円)。爪楊枝でつまんでチリ・ソースにつけて食べる。久しぶりに食べた新鮮なタコとイカはやっぱりうまい!ビールがないのが激しく悔やまれる。
ちなみに、海のないザンビアにはタコもイカも食べたことがない人が多く、帰ってきて写真を見せたら「なんだコレ!こんな奇妙なもの食べるのか!」と驚いていた。
売り子のおじさんが、タコはプェザ、イカはンギシィ、とスワヒリ語の呼び方を教えてくれた。新しい言葉は、いつも食べ物から覚えていく。
市場で捌かれている魚は、マナガツオ、フエダイ、サバ、タチウオの仲間だろう魚が多かった。他にはキビナゴ、エイ、小さなインドマグロなど。同じ魚でも日本で捕れる種類とはちょっと色の違う種類の魚もあったりしておもしろかった。なにより驚いたのは、ウミヘビを食べるということだった。猛毒を持っていると思っていたけれど、食べられる種類のウミヘビもいるのだろうか。
暑い国の海の魚は、色と模様が派手なものが多い。熱帯魚みたいな南国らしい派手な魚を見てみたいと思って探したけれど、競り台に上がる魚は地味な色のものが多かった。派手な魚は毒を持っていることが多いという定説は、アフリカでも健在なのだろうか。
と思っていたら、ド派手なロブスターを発見!いかにもオイラ南国の海のエビです、というような顔をしている。なんだなんだ、やっぱりいるじゃないか!ところでオマエはなんでそんな色をしてるんだ?と聞きたい気分だった。
南国の魚が派手なのはなぜなのだろう。珊瑚の中で身を隠すためなのだろうか。毒を持っているから危険だぜという自己主張なんだろうか。それとも、異性の気を惹くためのセックス・アピールなんだろうか。
魚だけじゃない。花や虫や鳥も、南国の生物には色のコントラストが鮮やかなものが多い気がする。それはどうしてなのだろう。太陽光の強さが影響しているのだろうか。
そんなことを考えていると、目の前のおばさんたちも派手なことに気がついた。原色の布、チテンゲのような模様の布、タイダイ風に染めた布。おばさんたちもロブスターに負けじと派手なのだ。
みんなみんな太陽のせいなのだろうか。『異邦人』のムルソーのようなことを思いながら、僕はするどく照りつける熱帯の太陽を見上げた。