えんじゅ

あるムスリムの家族

モシ

 モシとハリジャンに出会ったのは、ラマディさんの食堂だった。
 あるとき、いつものように椅子に腰かけてウロディオを注文しようとすると、ラマディさんは忙しそうに立ち回っていた。ちょうどお昼どきだった。注文のタイミングを計っていると、後ろの椅子に座っている2人組の女の子から声をかけられた。ブイブイ(チャードル、黒いヴェール)にすっぽり身を包んだ、ムスリム(イスラム教徒)の女の子たちだった。

 「何を食べたいの?」

 彼女には僕が何を注文していいか迷っているように見えたのかもしれない。
 
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かりそめの居場所

ラマディさん

 旅行者はいつだってよそ者だ。知らない町をちょっとだけ歩いて、そして帰っていく。
 そんなよそ者でも、その町に溶け込んだ気分になれるのは、ここが自分の馴染みの居場所、と思えるような一角を町の中に見つけられたときだと思う。懐の深い町は、よそ者にかりそめの居場所を与えてくれる。僕の場合、そんな場所はたいてい町の食堂だ。

 旅をしている間に食べられる料理は限られている。だからときには足が棒になるまで、居心地の良さそうな食堂を探して歩く。そんな食堂を見つけるには、自分の鼻に頼るしかない。鼻に神経を集中させて気に入った食堂を見つけると、そこばかりに通う。それは日本でも海外でも変わらない。
 幸せなことに、ストーン・タウンでもそんな食堂を見つけることができた。
 
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食文化が出会うとき

籾摺りをするおばさん

 スパイス・ツアーで香辛料と果実を見て回った後、ストーン・タウンに帰る前に、海岸で過ごす自由時間があった。せっかくストーン・タウンから離れたところに来たので、村の生活を見てみたいと思って1人でウロウロしてみた。

 歩いていると、村のおばさんが籾摺りをしているのを見かけた。摺った籾を高いところから下に落として、風で籾殻の滓を吹き飛ばす。なんだか楽しそうに歌を歌いながら、籾をザルですくっては落とし、すくっては落とししていた。
 タンザニアには米食の文化がある。
 アフリカの多くの国の主食はメイズ(トウモロコシ)の粉を練ったもので、タンザニアではウガリと呼ばれている。だけどタンザニアではウガリと同じくらいかそれ以上に米も食べられている。
 僕が住んでいるザンビアのンドラでも、メイン・マーケットに並んでいるのはタンザニアからの輸入米だ。ザンビア人の友人はよく、「タンザニア米はアロマティックだ」という言い方をする。日本米のようなモチモチした食感はないけれど、炒めると香り立ってとても美味しい。
 
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香辛料を巡って

ココヤシ

 毎日果物市場でランブータンを買って食べているうちに、心にふつふつと湧いてくる思いがあった。今が最盛期だというランブータンの果実が木になっている姿を見てみたい。できれば自分で木から実を穫って食べてみたい・・・。
 一度そう思い始めると、だんだんそればかり考えるようになってしまった。
 ランブータンの木を見に行こう。 木を見に行くためだけの1日があってもいい。そう思って宿のご主人に相談してみた。

 「ランブータンの木を見てみたいのですが、この地図のどのあたりで見られるでしょうか?」

 そう言って島の地図をひろげた。自分でダラダラ(島中を走っている小さなバス)に乗って見に行こうと思っていた。
 するとご主人は、地図に目をやることもなく言った。

 「それならスパイス・ツアーに参加しろ。ザンジバルの香辛料や果物の木を見られる。急げ!ちょうどあと2分後にバスが迎えにくる。それに飛び乗れ」
 
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救いの歌

ラスタ帽をかぶったハマダンさん

 ジョーズ・コーナーで出会った、漁師のハマダンさん。
 夜釣りから戻って魚を売った後、コーヒーを飲んでひと息ついているところだった。
 ハマダンさんは髪を切らずにドレッドにして、ラスタ帽をかぶっている。タンザニアではどういうわけか、このレゲエ・ファッションをちらほら見かけた。

 レゲエはカリブ海に浮かぶ島、ジャマイカに奴隷として連れてこられた黒人が作った音楽だ。歌っている内容も、奴隷制度や植民地支配に対するプロテスト・ソング、アフリカへの回帰を呼びかける内容が多い。
 タンザニアでレゲエ・ファッションを見かけるのは、海を渡った人びとの心の自由と平和を希求する音楽が、歴史的に虐げられてきたこの国の人びとの琴線に触れたからなのかもしれない。
 かつて奴隷が売られ船で積み出されたこのザンジバルという島で、その奴隷が到達したジャマイカの島で作ったラスタ文化の一端を目にするのは、とても感慨深かった。
 だからザンジバルを旅する僕の頭の中にいつも流れていた歌は、ザンジバルで生まれたフレディ・マーキュリーの歌ではなくて、はるか遠い島で生まれたボブ・マーリーの歌だった。
 
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